危険が危ない、二戸編

東北は怖いなあ。


同じ媒体に乗っている助産師の脳天気な「もっと助産師が頑張らないと」という抱負と比べると、悲壮さが対照的すぎて目から水が……

 一人で外来診療している状況で「何でこんなに待たされるのか、あの先生もこの先生も私は知っている、早くしろ」と受付での大声が今日も聞こえる。
 日中からぶっ続けての勤務となる当直中、ようやく外来が落ち着いたと思ったら、深夜帯の出産二件。
無事終了したとたんに再び救急外来コール。「高血圧の薬を夕食後飲んだかどうかわからなくなり、二十二時にもう一錠内服、風邪気味なので風邪薬も内服したところ、ふらふらする。血圧を測ったら九〇まで下がっていた。薬を飲み過ぎたときの注意など主治医(開業医)は教えてくれなかった。どうすればいいのか、今すぐ対応せよ」午前三時三十分に家族総出で詰め寄ってくる。
 数時間後には予約だけで八十人以上の外来と午後から二件の手術が待っている。
 「前回出産は安産だったから私は大丈夫」と、妊娠三十七週六日に突然里帰りしてきて分娩予約を取る経産婦。そんな状況では当院では難しいと告げると「県立病院なのに患者を拒否するとは何事か!知事に訴えてやる」
 以上は、すべてここ一か月以内の出来事である。


* * *

 病院はいつからコンビニエンスストア、二十四時間薬局になったのだろう。何でもそろい、いつでも完全な治療が受けられる病院はいったいどこにあるというのか。
 病院に来れば絶対治る、と保証しているのはいったい誰なのか? 治らないのは、合併症が起きたのは、すべて医療ミスか? 日本全国均等な(最高の)医療を受けられないのは、そこに勤務している医師が悪いのか? 地方に医師が足りないのは、医師の自覚レベルが低いのか? 地方の自助努力が足りないのか? 県の職員(公務員)であるから、毎年財政難を理由に給料が他の職員と同様、減らされてくることも我慢せよ、ということか?

それでも働かなくてはならないか
http://www.jfpa.or.jp/02-kikanshi1/osan03.html

岩手県立二戸病院産婦人科長 秋元義弘

 医療にまつわるトラブルのニュースを聞かぬ日はない。当院のような東北地方の「牧歌的」と思われているような地域の病院でもそれは全く同様で、いつ自分のことを投書されるかと、悪いことをしているわけでもないのに、なぜか毎日どきどきしながら診療している。

* * *

 ご多分に漏れず、当院でも全県的産婦人科医の減少により、常勤医が二人から一人となり、危機的状況となっている。しかし、地域的に当院での患者制限を行うと、文字通り「道ばたで」産むしかなくなる地域在住の妊婦さんたちが多く、薄氷を踏む想いで、制限なしで分娩、外来、手術に臨んでいる。
 さらには、地域全体としても医師数が減り、地域中核病院で二次救急病院は当院しかないため、周辺市町村からの救急搬送は増えるばかりでもあるのに、当院全体としても医師数が減少。産婦人科だからといって当直免除など要求できる状況にもなく、最低月に数回の一般当直業務も行わざるを得ない。
 いつ自分が倒れても、患者に何かが起こっても、全然不思議ではない。

* * *

 それに対し、患者サイドからの要求は、全く衰えることがないというか、どんどんエスカレートしているとしか思えない。

* * *

 一人で外来診療している状況で「何でこんなに待たされるのか、あの先生もこの先生も私は知っている、早くしろ」と受付での大声が今日も聞こえる。
 日中からぶっ続けての勤務となる当直中、ようやく外来が落ち着いたと思ったら、深夜帯の出産二件。
無事終了したとたんに再び救急外来コール。「高血圧の薬を夕食後飲んだかどうかわからなくなり、二十二時にもう一錠内服、風邪気味なので風邪薬も内服したところ、ふらふらする。血圧を測ったら九〇まで下がっていた。薬を飲み過ぎたときの注意など主治医(開業医)は教えてくれなかった。どうすればいいのか、今すぐ対応せよ」午前三時三十分に家族総出で詰め寄ってくる。
 数時間後には予約だけで八十人以上の外来と午後から二件の手術が待っている。
 「前回出産は安産だったから私は大丈夫」と、妊娠三十七週六日に突然里帰りしてきて分娩予約を取る経産婦。そんな状況では当院では難しいと告げると「県立病院なのに患者を拒否するとは何事か!知事に訴えてやる」
 以上は、すべてここ一か月以内の出来事である。


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 病院はいつからコンビニエンスストア、二十四時間薬局になったのだろう。何でもそろい、いつでも完全な治療が受けられる病院はいったいどこにあるというのか。
 病院に来れば絶対治る、と保証しているのはいったい誰なのか? 治らないのは、合併症が起きたのは、すべて医療ミスか? 日本全国均等な(最高の)医療を受けられないのは、そこに勤務している医師が悪いのか? 地方に医師が足りないのは、医師の自覚レベルが低いのか? 地方の自助努力が足りないのか? 県の職員(公務員)であるから、毎年財政難を理由に給料が他の職員と同様、減らされてくることも我慢せよ、ということか?

* * *

 十数年ぶりの一人暮らしとなる単身赴任の生活は、覚悟していたよりもずっと大変だった。朝食を摂っておかなければいつ昼食がとれるかわからない。一人しかいないということは、絶対倒れるわけにはいかない。健康管理も仕事のうち、と、頭ではわかっていても、あと一分でも眠っていたい。熟睡しすぎていて夜中の緊急コールにでられなければどうする。酒を飲み過ぎてはいけない。夜更かししてはいけない。
 できるか! そんな聖人君子のような生活が! 自分の理性に対して逆切れしそうになる。

* * *

 週末、自宅に戻ると子どもたちが駆け寄ってきてくれる。「一緒に遊ぼう!」「パパは疲れてしまっていて遊べない」と告げてしまうと、とたんに不満そうな顔になることはわかりきっている。よし!と気合いを入れ直して自宅のベルを押す。子育て、家のことを任せきってしまっている妻にも申し訳ないとしかいいようがない。さまざまな話をゆっくり聞いてあげたいが、夜こちらから出てくる言葉は、よほど気をつけていないと「疲れた、大変だ」的なものになってしまう。そうでなければ子どもらと一緒に爆睡してしまう。

* * *

 毎日、どうしようか、自分の将来が見えない。この仕事を続けていくモチベーションが保てなくなりつつある。せめて、「ありがとうございました」という言葉がもう少しだけもらえるなら、もうちょっとならがんばれるかもしれないが。