「福島大野事件が地域産科医療にもたらした影響を考える」シンポジウム

大野事件(中略)を考えるシンポジウムがあったようだ。
「地域産科医療にもたらした」というのを冠しているので、地元の方向けなのかな。

野村医師は大変色々と奔走しているようで、とても偉大だと思う。

まー、しかし、これからどうなるんだろうなあ……。

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「大野事件の検証を」産婦人科医らがシンポ

 シンポジウム「福島大野事件が地域産科医療にもたらした影響を考える」が8月20日福島市内で開かれた。産婦人科医や弁護士、産後の女性たちが悩みを共有する市民グループの代表らが登壇し、「福島県大野病院事件」について、さまざまな立場から語った。

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 シンポジウムは13時に開会。会場には、約150人の参加者が集まった。正午過ぎに判決公判が閉廷した後、地裁からシンポジウム会場にそのまま駆け付けたと見られる医師らも多かったが、事務局によると半数が一般の参加者だったという。

 今回のシンポジウムの呼びかけ人でもある国立病院機構名古屋医療センター産婦人科の野村麻実医師は冒頭、「大野病院事件」について「有罪か無罪かが分からない状態で、どれだけ社会に影響を及ぼしたかを一度検証しなければならない大きな事件だった。どうしてこの事件が民事でなく刑事で扱われたのか。また、福島の地域医療がどうなったかということも考えたい。患者と医療者は手を結んでやっていくものだが、それを忘れてきたからこそ、こういう事件が起こったのではないか」と会場に呼び掛けた。


■残った産科スタッフ、どう守る
 野村医師は、加藤克彦医師が逮捕された2006年以降、福島県内の産婦人科医の数が減っていることや、08年には3年前と比べて病院の数が6.9%、産婦人科標榜数が 15.3%減っていることなどを示した。今後の休止予定も含めて12病院が「大野事件」後に分娩を休止していることなども紹介した。その上で、「福島県内の医療は倒れかけだ。無罪でよかったが、失ったものを元に戻すのは難しい。住民の皆さんが、残った産科スタッフをどう守っていくかを考えて頂きたい」と述べた。

■医療への配慮あふれた判決
 「大野事件」公判の傍聴記録をずっと続けてきた、患者向けフリーマガジン「ロハス・メディカル」を発行するロハスメディアの川口恭代表取締役は、今回の判決について「一言で言うと、医療に対する配慮にあふれた判決だった」と述べた。
 今回の裁判は胎盤の剥離(はくり)を続けた医師の判断の妥当性などが争点となっていたが、判決内容について、「(検察側と弁護側の)どちらが正しいという判断はしなかった。刑罰を科す基準となるべき医学的準則は、相当数の症例があるべきで、そういう医療を普通に行っているということが明確でない限り、それを基準にして刑罰を科してはならないということ。これは踏み込んだ判断ではなかったかと思う」との認識を示した。その上で、「込められたメッセージとしては『医療者の皆さん、安心して医療をやってください』ということだと思う」とした。また、医療に対する配慮がなかった場合は有罪になっていたかもしれないとして、「恐ろしい判決だったと思う」とも述べた。

■共に手を携えるべき
 和歌山県医大放射線医学講座の岸和史准教授は、医療事故に巻き込まれた経験を振り返った。当時の事故調査では、起こった出来事の因果関係は後回しにされ、個人に対する刑事責任の追及が主だったとし、「こうした現状が基本的に変わっていない」と指摘した。その上で、患者と医療者が信頼関係を構築することの重要性に言及。「患者と医療者は、ともに病や苦痛からの解放、守られた健康を維持する使命があるはず。なぜ紛争になってしまうのか、医療者と患者は共に手を携えていくべき。私は患者と仲のいい関係を作ることを、今後も使命として活動していきたい」と語った。

■産科医療体制を地域で確立
 飯田市立病院(長野県)の山崎輝行産婦人科部長は、初診は市立病院以外を受診してもらい、産科の共通カルテを作って情報の共有化を図るなどの「産科セミオープンシステム」と呼ばれる、地域協力体制を紹介した。同院のある飯田下伊那地域では05年、分娩できる施設が6施設から3施設まで減りそうになり、地域の産科医療が崩壊の危機にひんしていた。このため、同年に行政や医療関係者などで「産科問題懇談会」を開き、産科セミオープンシステムを構築。これに伴い、同院では常勤の産婦人科医や助産師を増員し、助産師外来を充実させるなどの対応を図ったとした。こうした努力により、06年度には前年度に比べて正常分娩の数が倍増したという。ただ、08年には、リスクを懸念する産婦人科医が離職を表明したため、分娩制限に踏み切っている。今後も引き続き常勤の産婦人科医や助産師の確保、地域の協力体制の継続・維持が課題だとした。

■母親とのコミュニケーション充実を
 産後のうつや、マタニティブルーなどの心の悩みを持つ女性たちに、インターネットで情報提供などを行っている自助グループ「ママブルーネットワーク」の宮崎弘美代表は、さまざまな悩みを聞いてきた経験から、「医療者とお母さんたちの視点は全く違い、求めているものも違う」との認識を示した。悩みを持つ母親たちが感じていることの共通点として、体調を崩した時に赤ちゃんを預けて医療機関にかかれないことを挙げ、「ほんの10分でもいいから赤ちゃんを見てもらえるスペースが医療機関にあれば。これはママたちのニーズ」と訴えた。また、医師とのコミュニケーション不足も挙げ、「診察の場で傷ついたと感じるママがびっくりするほど多い」とした。産婦人科では母乳で赤ちゃんを育てるように勧められたのに、ほかの医師からは服薬時には母乳をやめるように言われたことなどを例に、医師によって意見が違うために母親が混乱することもあるとした。「コミュニケーションがないままに正しいことを言われてもお母さんたちの心には響かず、信頼が失われていく。何度もやり取りをしてほしい」と、医師と母親らのコミュニケーションの充実の必要性を訴えた。

■医療刑事事件は無罪が多い
 医師と弁護士の資格を持ち、医療事件を専門に担当する加治一毅弁護士は、「刑事事件は99.9%が有罪。しかし、医療刑事裁判においては略式起訴も合わせて3年間で40−50件の起訴がある中で、無罪が4件」と述べ、医療刑事事件には無罪が多いとの認識を示した。また、「医療とは、普通に働いていてもミスをすれば、場合によっては警察が介入することも有り得る特殊な職業。警察がどこから介入していいのか、しないのかの線引きがしっかりしていることが、安心して働くためにも必要だ」と述べた。

■正当な治療行為に逮捕・拘留するな
 01年に心臓手術を受けて当時12歳の女児が死亡した「東京女子医大事件」の被告で、現在係属中の佐藤一樹医師(綾瀬循環器病院心臓血管外科)は、「正当な治療行為を行った医師を逮捕・拘留するな」と訴えた。「大野事件」では、カルテの改ざんは不可能だったことや捜査期間が十分にあったことなどを示し、「逮捕や拘留される理由はない」と主張した。その上で、「逮捕・拘留の本当の理由や目的、意義は自白供述調書の作成にある」として、これが冤罪(えんざい)の温床になっているとの見方を示した。その上で、「正当な医療行為と過失について刑法上での再検討が必要」と訴えた。
 また、一人で福島県立大野病院の産婦人科を担っていた加藤医師が逮捕・拘留されたことにより、同院の産科が実質的に廃止となり、地域の産科医療が崩壊の危機にひんした。「このことは、医療や医師の人権が軽んじられた証拠」と主張した。

更新:2008/08/20 22:28   キャリアブレイン