毎日がエブリディ: お産難民のゆくえ:求められる「助産師」像

エブリディ新聞は助産師好きだなあ……


お産難民のゆくえ:求められる「助産師」像/中 助産師主導に賛否両論 /山梨
 ◇医療事故時の対応に課題

 「生まれた赤ちゃんをすぐに母親の胸に置くと、赤ちゃんは慣れ親しんだ心音を聞き、泣きもせずに静かに過ごします。へその緒も急いで切る必要はなく、1時間もすると自分でおっぱいに吸いつく。この時間が母子にかけがえのないきずなを築かせるんです」

 今月2日、甲府市内で行われた講演会。自然分娩(ぶんべん)を中心に行っている上田市産院(長野県上田市)の広瀬健副院長は、分娩のあるべき姿として熱っぽく語った。

 一方で、一般的な病院での分娩は「訴訟に対する『医師の安全』を優先している」と疑問を表明。妊娠から分娩、産後まで長期的に助産師が主導し、異常出産時に産婦人科医がバックアップする体制の確立を訴えた。

 ただ、助産師が分娩まで行う助産院は、県内に2施設しかない。その一つ、韮崎助産院(韮崎市富士見1)を訪れると、甲府市善光寺2、主婦、田中真理さん(30)が助産師の雨宮幸枝さん(65)と紅茶を飲みながらくつろいでいた。「病院での分娩は不自然さを感じます。本来人間に備わっている力でお産をしたい」。田中さんは助産院を選んだ理由をこう話し、雨宮さんに絶対の信頼を置いている様子だった。

 出産をスムーズに行うため、病院分娩では陣痛促進剤がよく使われ、会陰切開も少なくなく、赤ちゃんは母親と離れて数日間、新生児室で過ごす。助産師による自然分娩を望む妊婦もいるが、甲州市のサークル「子育てネットこうしゅう」の坂野さおり代表(38)は「妊婦と病院で産みたいスタイルにズレがあるが、出産施設の減少で選択肢がない」と妊婦の悩みを代弁する。

 一方、医師側は「助産師主導」の早期展開に懐疑的だ。県産婦人科医会の武者吉英会長は、情報化の進展で妊婦は高度な出産知識を持っているとして、「助産師に妊娠から産後まで任せるといっても、医療事故まで受け入れられないだろう。仮に妊婦にその気持ちがあっても、夫や両親といった周辺は納得しない」と分析。韮崎助産院でも分娩直前に家族に促され、最終的には病院でお産をする妊婦も時折いるという。

 国立病院機構甲府病院産婦人科医、深田幸仁医師(44)は、さらに「リスクを背負うことになり、助産師自身が主導を望んでいるかどうか」と指摘する。今年2月には新生児の死亡は助産師の過失が原因として、横浜市の医院が慰謝料など5320万円を求められる訴訟が起こされ、06年には栃木県の助産所助産師が新生児の死亡事故で提訴され、3700万円で和解している。

 武者会長は「医師の厳しい勤務環境が続く中、助産師に仕事が流れるなどという思いはなく、助産師の活躍の場が広がるのをむしろ歓迎する」と話す。ただ、深田医師は「助産師主導」について、「検討する前に、妊婦と助産師の意向を確認する必要がある」と述べ、前のめりの議論にくぎを刺した。【吉見裕都】

毎日新聞 2007年11月23日