産科ネタ

「ある産婦人科医のひとりごと」さんの記事から産科婦人科学会の提言と妊婦向けの交通費宿泊費補助についてと、
「新小児科医のつぶやき」さんから救急崩壊についての記事です。

分娩施設における医療水準の保持・向上のための緊急提言 (日本産科婦人科学会

全国的に分娩施設が激減し、産科空白地帯がどんどん拡大しつつある現状において、地域内にちゃんとした周産期医療体制が存続し、地域の周産期医療がきちんと地域内で安定的に維持されてゆくことこそが真の少子化対策であるということを、市民、議会、市幹部などに理解してもらう必要があります。

というコメントを書いてくださっていますが、日本産科婦人科学会
「分娩施設における医療水準の保持・向上のための緊急提言」と題する
声明を出したようです。

以上の理由から、以下のような提言をすべての分娩施設に対して行うこととする。
1.すべての分娩施設は必要なスタッフを確保し、医療設備の向上に努めていただきたい。
2.分娩施設の責任者は、勤務している産婦人科医師の過剰勤務を早急に是正すべきであり、それが達成されるまでの過渡期においては、産婦人科医師の過剰な超過勤務・拘束に対して正当に処遇していただきたい。
3.上記を達成し、地域の周産期医療を崩壊させないためには、分娩料の適正化が必襁

だそうで。でも「分娩料が安いとこんな問題があるよ」とは書いてあるけれど、
「分娩料を適正化するとどうなるか」は書かれてないね。

  • 貧乏でない自治体においては、住民が地方自治体内で出産することへの補助金の付与。値上げ分を上乗せする形で補助。
    • 値上げした地方自治体外で分娩されると、取り得になるから多分制限を付けるだろう
    • これによる病院の設置主体の地方自治体やある種の協定を結んだ地方自治体の外部からの出産抑制
  • 給与水準の上昇
  • 前項によるスタッフ数の増加
  • 前項によるスタッフの負荷の低減、士気向上
  • 前項による医療水準の向上

というあたりですかね。2chあたりだったら、

  • DQN患者の低減

なんてのも入れるかもしれない。そういえば、「分娩料を100万値上げして、
住民には100万補助すればいいじゃん」というのを2chで見たが、時代の先をいっているなあ。

  • 初期状態での分娩費用は高額に設定しておき、診察回数に応じたディスカウント

というようなことも検討すると、DQN患者の低減に貢献するかもしれない。
支払い踏み倒しへのケアも必要だろうけど。債権譲渡とかしちゃうのがいいんですかね。
某所で産科医の方が「母子手帳を出産権利証にまで高めるような方策があってもよい」と言っていたが、
そういう方向も必要なんだろうなあ。

妊婦の宿泊・交通費に補助金

基幹病院に勤務する産科医が著減し、日本全国で産科空白地帯が広がっています。もはや、近くの病院にこだわるほど産科勤務医は残ってません。
産科空白地域となってしまった医療圏では、妊産婦が遠方の医療機関を利用せざるを得ません。交通の便の悪い地域では、出産が近づいたら、医療機関近くのホテルなどを利用せざるを得ない場合もあり得ます。

という報道もあったようだ。ウラ取りしていないけど、

***** 産経新聞、2006年10月29日

産科医不在地域 妊婦の宿泊・交通費に補助金

 厚生労働省は28日、少子化対策の一環として、近くに産婦人科がなく、遠方の医療機関を利用せざるを得ない妊産婦が、出産が近づいて医療機関近くのホテルなどを利用する際の宿泊費や交通費を助成する制度を新設する方針を決めた。地方自治体との共同事業で、負担率や助成対象などは自治体が設定、国は最大半額を負担する。

だそうで。

前述の某産科医さんは、「病院の近くにホテルを造ったらどうか」というのを提案していたけど、
これはすでにどこかの自治体が厚労省に先行して実施していた気がするので、やむを得ないんだろうなあ。

妊婦側は非常に不満を述べる声が大きかったけれども、奈良県の妊婦死亡事件をうけ、
「僻地で産むと死ぬ」という意識が多少なりとも広まっている今が導入のチャンスなんでしょうか。

救急オワタ\(^o^)/

救急崩壊という話。

「東京で救急指定病院激減 東京の救急医療、大規模崩壊進む 大淀病院産婦死亡事例が大影響」
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2006/10/post_2e78.html

「余波というより津波」のコメント欄。
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20061028

都心でも夜間救急が崩壊しはじめたようだ。
情報の真偽は1-2ヶ月もすればわかるかな。

ついに始まりましたよ。

一人で救急指定病院で当直(バイトという立場で)の応援は嫌だとうちの医局の医師たちが拒絶し始めました。だったら医局を辞めるそうです。続出しているようです。入局説明会で実はこういった病院での当直はあるかと研修医の先生方が質問が続出し、紛糾しました。来月からそちらの病院(複数ですが)にお断りせざるをえません。

少なくとも個人病院で救急指定の看板をおろすという話は今月になり増えてきました。それがいいですと新聞を読まない連中以外もう誰も止めません。

転送を断っても警察から事情を聞かれ 書類送検の可能性ありでは仕方ないです。救急センターの集約化といっても都内の大病院の救急センターで小児科や産婦人科の先生たちが加わっているセンターは知りません。もう人を出している余裕もなくなってます。

こういったケースでどういう風に治療すべきか方針を明示できる産科の医師もいないそうです。

一方、体制不備で受け入れると「いちかばちかでは困る(大野病院事件の片岡検事発言)」として逮捕・家宅捜索

産科や小児科、脳外科、麻酔科医などがいない救急病院で、受け入れを断る

地方の夜間救急、小児科・産科荒廃

今までは許容された

奈良事件では、断った病院の過失を問えないか検討する、との報道がなされた

!断っても受け入れても警察来るなら、救急やらなきゃいいんじゃね?

都市部も夜間救急荒廃  ←いまここ

都市部も救急、産科、小児科荒廃

米帝的医療制度にいくか、英国的医療制度に行くかの選択

前者だと、
「お客様の加入している保険では歯科治療できません」
「お客様の加入している保険ではこの病気は治療できません」
「出産後3日で退院」

後者だと、
「クリニックの紹介がないと病院にはかかれません」
「クリニックからの紹介順にみていますので、いま2ヶ月待ちです」

「逃げ出す産科医」

「書庫 Library」さんの「逃散 19 資料」から。
元ネタは神戸新聞 2006.10.31 朝刊とのこと。
http://sword.txt-nifty.com/library/2006/10/_19__d498.html

大変良質の記事だと思うし、この記事の類型を見たことがないので、
神戸新聞の独自取材なのかなあ。だとしたら今後もチェックしたい。

亡くなった母親は後で死亡率の高い羊水塞栓症だったことが分かったが、直後には医療ミスを疑われた。遺族から殴られ、警察では六時間も取り調べを受けた。

「ただでさえ大切な患者さんを失って苦しい思いをしている時に、これでもかというほど打ちのめされた」。結局、限られた人数では、出産は扱えないと結論を出した。

  • 遺族から殴られ、警察で半日取調べ
  • 「いちかばちかでは困る」ということで、潤沢なスタッフを確保できないので、産科から撤退

という感じだそうで。女医さんの話も心が痛む。

転職を決めた理由は忙しさではない。「忙しくても収入が悪くてもやっていける。でも寝ずに働いて、患者から暴言を浴びせられたり、訴えられたりするプレッシャーの中では、何のためにやっているのか分からなくなる」

「生命の誕生に立ち会える喜びをあーだこーだ」という奇麗事を言うのは簡単だが、
それだけしかポジティブなインセンティブがなく、
暴言、暴力、訴訟、警察による嫌がらせ、睡眠不足に超過勤務、
ついでに報酬とくると切ないね。

労働や努力が正当に報われる職場でなければ人は働けない。
記事末尾に小松先生のコメントが記載されているが、
(本の出版以前から崩壊していたけれど、それはさておき)
医療崩壊」に書かれているとおりに現場が崩壊している。
実際には割り箸事件のあたりからなんですかねえ。

「医療は不確実で、過失がなくても重大な結果になることがある。警察が介入すべきではないし、現実を理解せずに報道するメディアの責任も大きい」

と、小松先生は最後にメディアの責任に言及しているが、
それをきちんと乗せた神戸新聞えらい。


以下もーちょっと広い範囲で引用。

逃げ出す産科医
都道府県 8 割で不足に直面
患者の意識と現実にずれ
プレッシャーに耐えきれず

都道府県の八割が直面する産科医不足。背景には二十四時間体制の過酷な勤務実態と、お産をめぐる訴訟や刑事責任に問われるケースの増加がある。勤務医たちはプレッシャーに押しつぶされるようにして、生命誕生の現場から離れている。

医療ミス

大阪府の男性産婦人科医 ( 三八 ) は昨年十二月、出産した母親の死亡事故をきっかけに、産科の診療所を辞め、お産を扱わない診療所を開いた。

亡くなった母親は後で死亡率の高い羊水塞栓症だったことが分かったが、直後には医療ミスを疑われた。遺族から殴られ、警察では六時間も取り調べを受けた。

「ただでさえ大切な患者さんを失って苦しい思いをしている時に、これでもかというほど打ちのめされた」。結局、限られた人数では、出産は扱えないと結論を出した。

医師は「社会ではお産を軽く考える風潮があるが、実際は命にかかわることもある。医療の現実と患者の意識のずれが、一方的に医師にぶつけられている」と訴える。

走る動揺

大阪府の公立病院勤務が長い産婦人科の女性医師 ( 四一 ) は、外資系の製薬会社への転職を決めた。緊急手術など臨床現場での経験は約十五年。当直明けで翌日も仕事をする三十六時間勤務などもこなしてきた。

転職を決めた理由は忙しさではない。「忙しくても収入が悪くてもやっていける。でも寝ずに働いて、患者から暴言を浴びせられたり、訴えられたりするプレッシャーの中では、何のためにやっているのか分からなくなる」