医師が任意後見契約、元患者女性の遺産数億円受け取る

死んだ後に疎遠な親族が湧いてきた予感

医師が任意後見契約、元患者女性の遺産数億円受け取る
 東京都内の私立大学病院の医師が、元患者の女性と任意後見契約を結び、昨年6月に女性が81歳で亡くなった後、遺言により数億円に上る全財産を譲り受けていたことがわかった。

 女性の親族は反発している。

 読売新聞の取材に対し、医師は代理人を通じ、「法的にも倫理的にも問題はない」とした上で、「女性の遺志を尊重し、財産すべてを大学の研究などに寄付する」と回答した。

 しかし、任意後見制度に詳しい専門家からは、「業務としてかかわる後見人が遺贈を受けるのは職業倫理に反する」との指摘も出ている。

 医師の代理人弁護士によると、医師は1987年に女性が入院した際の担当医の一人として知り合い、女性が95年に再入院した際も担当した。女性の姉も病弱で、転院先や生活上の相談に乗る中で親しくなったという。女性と姉は結婚しておらず、千代田区内の自宅に2人で暮らしていた。同区内の宅地約240平方メートルなど、不動産や預貯金「数億円相当」(代理人弁護士)の財産を所有。親類とは疎遠で、2003年4月に医師が将来、女性と姉の後見人になるよう任意後見契約を結び、同時に遺言公正証書を作成した。

 遺言は、「頼れる身よりはなく、長年にわたり医師に病気の診療その他多くのことで一方ならぬお世話になった。心からの感謝の気持ちを表し、医師夫妻に財産を遺贈することにした」として、〈1〉姉妹が死亡した時の遺産は、第一にお互いが、第二に医師が、第三に医師の妻が譲り受ける〈2〉遺言執行者に医師を指定する――と定められた。

 女性の姉は、遺言作成の3か月後、86歳で死亡。姉の財産を相続した女性はその後、医師の世話で都内の有料老人ホームに転居した。医師や妻が女性を外食に連れ出したり、正月に自宅に招いたりといった付き合いをしていたが、昨年6月に亡くなった。

 日本医師会が04年に策定した医師の職業倫理指針は、医療行為に対する謝礼を患者から受け取ることを禁じている。女性の親族の一人は、「患者の医師に対する信頼を悪用した行為で、医師の倫理に反する」と反発している。

 医師の代理人弁護士は、「医師は長年、女性と家族ぐるみの付き合いをしており、医療行為に基づく謝礼ではない。遺贈は女性本人の遺志に基づくもので、法的にも倫理的にも問題ない」としている。医師の所属する大学は、「医師と女性の個人的な問題で、一切関知しない」とコメントしている。

(2008年1月29日14時31分 読売新聞)