東金の医療を見守る会的な何か

こういう受益者団体が出来るのはいいなあ。効果があるといいね。

医療をまもる 千葉・東金の連携(下) 市民が病院の危機代弁 研修医の育成にも尽力

2008年7月17日

 ピンクの付け毛に鼻を赤くした「けんじい」こと外口徳(とぐちとく)美致(みち)さん(58)が登場すると、公民館に拍手がわいた。

 本職は県立東金(とうがね)病院(千葉県東金市)の地域医療連携室副主幹。歌手の美川憲一さんの物まねも交え、生活習慣病の怖さを話す漫談が、同病院の市民講座で人気を集める。だが、六月下旬のこの日は少し様子が違った。

 「金を払えば治って当たり前。何かあったら即訴訟」−と、患者の風潮を皮肉り、安易に病院にかかる「コンビニ受診」の問題も指摘。そして「怒りたくなったら、船と一緒で、止まってから“いかり”を下ろしましょう」。

 患者の権利意識をネタにしたのは、初めてだった。「ドキドキでした。病院の人間が言うと反感を持たれるかも、と心配で…」

 それができたのは、NPO法人「地域医療を育てる会」と合同開催の市民講座だったから。

 漫談の前に、同会代表の藤本晴枝さん(43)が「私たちの健康が医療で守られるためには、その医療を私たち住民が支えていかなくてはならないのが現状。今、病院の医師たちは本当に大変です。感謝の気持ちを伝えましょう」と語りかけていた。

 平井愛山院長が東金病院に着任して十年。診療所や薬局などと強い信頼関係を結び、病院改革と地域に根差した医療を広げてきた。しかし、かつて十人いた内科医は一時二人にまで減った。現在は七人にまで回復したが、救急業務も大幅な縮小を余儀なくされている。

 平井院長は「かなり追い詰められた状況だと、知ってもらわないといけない時期。医療の地域連携ができても、それだけでは現状打破できない。市民の力が不可欠」と藤本さんたちの活動に大きな期待を寄せる。

 「育てる会」は三年前、医療崩壊の現状に危機感を抱いた藤本さんらが中心になって結成した。

 メンバーは、主婦や大学教員、元看護師ら。活動の中心は、A4サイズの情報紙「クローバー」だ。毎月、救急医療や医師不足など医療の問題を紹介し、「昼間に受診しよう」「医師に感謝の手紙を書こう」などの提案をしている。

 東金市自治会の協力を得て、回覧板に挟む形で一万七千戸の全戸配布をしているほか、周辺地域にも配っている。

 「今の夜間救急態勢だと、月に二十日は他地域の病院に行くしかない。明らかに危機なのに、医療側はSOSを出しにくい。出すとたたかれるから。SOSを地域で代弁していくのが私たちの仕事だと思う」と藤本さん。院内に四月に設けられた地域医療連携室には「育てる会」の席もできた。

 平井院長は、勤務医不足を乗り切るため、研修機能の強化に以前から取り組んでおり、指導医も増え、若手の研修医三人も同病院の大切な戦力。「育てる会」も昨年から、医師の育成にかかわってきた。

 研修医が病気予防について講話を行い、同会メンバーや公募の住民が受講。話の疑問点を尋ねたり、分かりやすさ、表情、声のメリハリなどを採点するのだ。独りよがりな説明ではなく「いいコミュニケーション」ができる医師を育てようという研修。住民の健康意識も高まる。「こんな研修は驚きですが、非常に楽しいです」と研修医の蔡明倫さん(27)。

 全国各地で生まれている医療再生運動の関係者を招く連続講座も、育てる会主催で開いた。

 平井院長から「女坂本竜馬」と称される藤本さんは「育てる会」の名に、住民も主体的に医療を守る決意、時間をかける覚悟を込める。

 「市民側は、身近に最高の医療が年中あるのは理想。でも医師がいない、支えるお金がない、すぐに実現できないのは事実。何にせよ私たちはこの土地で生きていかなくてはいけない。情報を提供し、さまざまな立場の人が話し合う場をつくるのが私たちの仕事。住民も医療側も同じ目線に立って考えたい」 (野村由美子)